明星山P6南壁 クイーンズウエイ
(2019年10月19日〜20日)

明星山P6南壁

“ここを登るためにフリーをする”

1 はじめに

冒頭の言葉は以前私(秋山)が言い放ったものです。

いささか不遜な言葉だとは思いますが、今回の明星山でも同じことを考えていました。
学生時代に初めて現地を訪れ、「左フェースルート」を登りました。

壁の巨大さに恐れおののくなか、ルート中では冷蔵庫大の落石が横を通り過ぎ、心が凍ったことを覚えています。

「フリースピリッツ」は、その2年前の1979年に下半分、1980年に上半分が完登され、それまでのⅣ級A1閉塞期を打ち破るエポックメーキングな記録として「岩と雪」誌で紹介されて以来、憧れのルートとなりました。

当時、現地でもルートを真剣に目で追っていました

社会人になってから「左岩稜」を2回、その後の「直上ルート」を経てついに「フリスピ」に会の杉山・白形と取り付いたものの、私が痛恨のルートファインディングミス。

ルートは完登したものの帰宅後調べたところ、そのルートが「恐怖の雨男」という名前だったのは今でも笑い話です。

ちなみに杉山・白形は、その2週間後の平日に完登されました。

その後、転勤で東京に居を移し、「フリスピ」に再び取りついたのが2011年。下から上までいっさいA0(エーゼロ)など人工手段が頭をよぎることは全くなく完登できました。その時も冒頭の言葉が頭によみがえりました。

そして次は「クイーンズウエイ」!と思い、2013年に初挑戦。

下部核心は私が担当しオンサイトできましたが、その後はパートナーがゴボウを連発。

モチベーションも切れていたので、中央バンドから撤退しました。

そして今回のパートナーとなるT田さんに休日を工面してもらい、再挑戦することができました。

体感として外岩5.11aオンサイトの実力が必要と考えていましたので、最高のパートナーと登ることができました。この場を借りて感謝いたします。

明星山に初めて取りついてから今回の「クイーンズウエイ」まで実に38年。

私もいつまで登れるかわかりませんが、今後もフリーの実力を落とさないよう精進していきたいと思っております。

2 作戦

①下部核心のオンサイトトライはT田さんに譲る
(私は2013年にオンサイトしていますので)ただ、この約束でかなり気が安らいだのは事実です。

②リードは空身=ザックは一個
常套手段ですが、水と食料の量はいつも悩みます。今回私は終了点まで水は飲まず、食料も口にしなかったので、水1.5l、おにぎり3個は多すぎた。

水500ml、おにぎり一個でもいいくらい。当日の天候を見て減らす、さらにはルート途中でも減らすことを考えたい。臨機応変の対応が必要。

③前日に「仕込み」する。
チロリアンブリッジの設置
下降路にマーキングつける

・背景
金曜日夜の出発が21:30と遅くなりそうだったので、土曜日は仕込みに費やすことにしました。結局、京都出発は20:00と早くなりましたが、日曜日の天気が良さそうだったので変更はしませんでした。

天気が良くてよかったですが、日曜日雨では、というのは不安のひとつでした。 

・チロリアン
今回は水量が少なく、渡渉も問題ないようでしたが、朝イチの冷たい渡渉は精神的に苦痛です。チロリアンなら時間短縮できるので、設置を判断。

いったん秋山が対岸に渡渉して竹田さんにロープを投げてもらい設置しました。それ用のロープも準備していました。

・マーキング付け
終了後、暗くなることを想定。暗くなって下降路が分からなくなりビバークするパーティもいる。迷わず降りれば40分ほどで帰れるのに。

自分自身も迷いまくった過去の経験から、事前にマーキングしておくことを決定。下降路を、「クイーンズウエイ」終了点らしきところまで上がる。

用意していた蛍光テープ・反射テープを木の枝など、そこここに貼っていく。2013年に貼ったテープも辛うじて残っていました。

今回は、結果的に明るいうちに降りることができまたが、二日間とも暗くなって下降するパーティもあり、彼らの役には立ったのではないかと思われます。

また、余ったロープで下降路のフィックスも張っておきました。

3 記録

(グレード表記はトポより、( )は秋山体感、【 】はT田さん体感の順。二人の感覚の違いも参考にしてください。)

P目 20m   秋山リード               
Ⅳ  (Ⅲ)【Ⅲ】
6:30スタート。僅かな差で一番乗りを勝ち取った。

「フリースピリッツ」には既に3人取りついていた。このピッチは簡単なところを選んで登る。

2013年にパートナーが5m上からグランドフォール、加えて「ぶなの会」のクライマーが10m上からグランドフォールし、ヘルメットが割れ頭部を強打。

硬膜下出血でヘリ搬出。

日常生活がほぼ1年間できないという事態になった、というピッチでもあり、ランニングなど慎重に対応。

残置支点は無く、細い灌木にスリングで取っていく。

ほとんどは太さ1cmほどしかなく、2cmあれば安心してしまう。

(このランニング状況は終了点まで同じでした。)

2P目 30m T田リード                   
5.10a  (5.11a)【5.10a】 
前回オンサイトしたときに5.11aを体感したところである。

T田さんは確実にカムでランニングをセットしながらよどみなく登っていく。さすが名張で修行しているだけある。

一方秋山は荷物を背負っていることと、過去にオンサイトしているピッチなので気合が入っていない。

おまけにリッジでフットホールドにしていた1cmくらいの突起がいきなり欠け、危うく後続のトップに当たりかけたこともありビビリが入る。

結果、あえなくテンションしたのが間違いの元。

宙吊りになってしまい自己脱出する羽目に。

下で見ている人がいっぱいいるので恥ずかしい限り。

かつ、無駄な体力を使ってしまった。この先が思いやられる。

2ピッチ目/かぶったクラックを越えた辺り

2ピッチ目/かぶったクラックを越えた辺り

3P目 30m 秋山リード                     
Ⅳ  (5.8)【5.8】
気を取り直そうと自分に言い聞かせ、左の凹角に取りつく。リッジを乗り越し左上すると、全体的に傾斜は緩くなる。

ただ、それは垂壁ではないという意味で、決して油断できない。

浮石らしきものも多いので、ホールドは全て確認しつつ登る。

ランニングも相変わらず細い灌木である。

簡単そうなところを選んで登ると、オールアンカーとボルトの支点があった

4P目 30m T田リード                 
Ⅳ (5.9)【5.8】
リッジから斜面にかかる。

2箇所ほど岩の乗越があり、少々戸惑っているようだ。

しかし確実な登りで枯れ木横のビレイ点へ。

5P目 50m 秋山リード                      
Ⅳ    (5.9)【5.9】
また凹角はじまり。マニュフェストを登っている人から、「そこがマニュフェストじゃないですか?」と声をかけられたが、今回が二回目なので覚えていたのと、この凹角はネットにも載っているところなので確信持って「マニュフェストは右ですよ」と告げる。

凹角もそれなりの悪さだったが何とか抜け、本来の「クイーンズウエイ」のビレイ点を3m左に過ぎた太い灌木である「フリスピ」のビレイ点で確保体制に入る。

5ピッチ目/出だしの凹角

5ピッチ目/出だしの凹角

6P目 50m T田リード                        
5.7(5.10a)【5.9】
ここだけ「クイーンズウエイ」のオリジナルルートが崩壊中。

見るからに脆そうなハングのため、「フリスピ」のリッジを辿る。

悪いリッジを越え右に回り込むと中央バンド。

手前にビレイ点(昔「フリスピ」に行ったときに打ったハーケンがまだあった)があるが、T田さんは中央バンドのザレ場を越えたところまで進んでいた。

この中央バンドは何回来ても怖いところ。

グズグズで足が止まらない。良いピンはないので灌木数本でビレイ。

7P目 50m 秋山リード                        
5.7(5.10b)【5.10a】
60mロープの効力を発揮し、2ピッチ続けて登った。

取り付きがどこなのか、なかなか確信が持てなかったが、以前行った「フリスピ」のランペとの位置関係、上に見えるぶら下がったスリングなどからルートを同定、意を決して登り始める。

7ピッチ目/上部壁を登りはじめたところ

7ピッチ目/上部壁を登りはじめたところ

ピンは相変わらず無いので頭脳ゲームだ。

いったん左上したあとに右上。ロープスケールで30mあたりにビレイ点があったが、ハーケン数本のもの、リングボルトとハーケンのものが別々に二か所しか無かった。

ロープはまだ半分あるし、なんだか気分も乗ってきたのでどんどん進むことにする。

決して易しくはないしランナウトもしているのだが、オンサイトの緊張感、それを乗り越える充実感に包まれつつ左上する。

すると5m上にオールアンカーの支点が光っていた。

それでルートが間違っていないことを確信し、一人で一気に盛り上がり突き進む。

7ピッチ目/どんどんロープをのばしていきます

7ピッチ目/どんどんロープをのばしていきます

8P目 30m T田リード                      
5.10a (5.10c)【?】
上部核心部。

T田さんリード・・・こうなるように仕込んだ!?わけではないのだが、こうなってしまった。かぶり気味のフェースからハング。

いろいろ悩んでいたようだが諦めてA0になってしまったようだ。

残念。

秋山は、フラッシュの気持ちもあったが、担いだザックの重みとフォロワーの緊張感の無さから足が上がらず、同じくA0となる。ビレイ点はオールアンカーとリングボルト。

8ピッチ目/ハイポーズ!と言ったらこうなりました

8ピッチ目/ハイポーズ!と言ったらこうなりました

9P目 50m    秋山リード                      
5.7   (5.8)【5.7】
ここも2ピッチリンク。

出だしのちょっとした凹角を抜けると、明らかに傾斜が落ちる。

下部から見上げた時にそこに大きな木が見えたので、(多分傾斜が落ちるので水がたまって木が育つ)と推測していたのが当たった。

精神的に全く楽になる。とにかく左上を意識して登る。

ほとんど稜線と思しきところにある太い枯れ木がある地点でビレイ。

ふと見上げると、5m先に昨日枝に貼った目印のテープがあった。

下降路/小滝川の渡渉 お疲れさまでした~

下降路/小滝川の渡渉 お疲れさまでした~

4 番外

「滝口康博さん」のこと

土曜日の偵察で左稜線の終了点からマーキングしながら上がっていったときに、上から一見おじいさんが降りてくる。

T田さんが声をかける。
「どこからいらっしゃいました?」
「山形から」
「どこのルートですか?」
「フリスピです」
「はじめてですか?」
「いや何回か」
「何時取り付きですか?」
「8:30ですけど、前のパーティ追い抜いて先頭で」

その時で14:00くらいだったので、すごいスピードであること、それに山形。加えて、どこか聞き覚えのある声だった。

秋山
もしかして滝口さんですか?」
「そうだよ」
「私二年仙台にいたときに仙台山岳会にいました」
「名前は?」
「秋山です」
「???」

こんなところで「明星山フリーの第二世代であり、最高の精通者である」(菊地敏之:日本マルチピッチフリークライミングルート図集より)と称される滝口さんに会うと思わなかった。

明星で「キャプチュード」「悪食外道」を拓いた人だ。特に後者は再登の話が無いと菊地さんの本に書いてある。

帰宅後にネットで検索すると、2010年ごろまで東北のクライミングコンペで成年男子優勝などもされていた。

見た目はおじいさんで小柄(秋山よりも!)だが、少しの会話でもそのパワフルさを感じられた。その滝口さんに「フリスピ初めてですか?」、と聞いたT田さんにも万歳!!。

仕方ないですよね!。     

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